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LIFE & BODY

“授かり”の確率を上げるために①
~最先端の生殖医療とふたりの祈りと~


卵

前に、“40歳までに産まなければダメですか?②~卵子凍結から考える「生殖」と「わたしの一生」~” の中でこんな事を書きました……

何があるかわからないのが「生殖」という神秘の世界です。不妊治療をあきらめて何年も経ってから妊娠する人もいます。

私のまわりには妊活をがんばっている人がいますし、まだ妊娠より先にしたいことがあるという人もいるし、妊活は卒業して新しい価値観を模索しているという人もいます。
妊活という道が開けたのはすばらしいことだ、今の人はいいなあ、と私は楽観的に考えていました。
しかし、決して安くはない費用もかかる中で、「いつ始めるか、どこまで続けるか」を自分たちで選択しなければならないということは、いくら悩んでも悩みつくせないテーマなのだ、と取材を通じて気づかされました。

そんな中、このコラムを読んでくれている方からメールをもらいました。慎也さん(仮名)という50代の男性で、「私たちが不妊治療を開始したのは、彼女が40歳のときでした。それから10年も妊活を続けて、ついに初めての妊娠がわかりました」と書いていました。今、お二人は幸せいっぱいだと思いますが、今日までにいろいろな思いがあったそうです。
「妊活はここまで進んだ」「卵子凍結も実用化した」と聞くと、それならどんどんチャレンジすべき、と単純に考えてしまいますが、現実に取り組んでいる人たちはどんな思いを体験しているのでしょうか。

妊活のために受けられる助成金がある

妊活

13年前に結婚した慎也さん夫妻、子どもはいつできてもいいと思っていましたが、最初の妊娠は流産してしまいました。その後、奥さんが40歳になったときに、早く子どもを持ちたいと不妊治療を開始することにしたのです。
驚いたのは不妊治療にかかる費用が高価なことでした。公的補助があるとは私も聞いていましたが、無制限にどこまでも補助してもらえるわけではありません。東京都の場合ですと、

子供を望む夫婦が早期に検査を受け、必要に応じて適切な治療を開始することができるよう、不妊検査及び薬物療法や人工授精等の一般不妊治療にかかる費用の一部を助成します。

と定められており、下表の検査と治療には費用の補助があります。ただし、年齢や回数などに細かく制限があります。

不妊検査 精液検査、内分泌検査、画像検査、精子受精能検査、染色体・遺伝子検査 等 超音波検査、内分泌検査、感染症検査、卵管疎通性検査、フーナーテスト、子宮鏡検査等
一般不妊治療 待機療法(タイミング指導)、薬物療法、人工授精等

保健医療機関(健康保険診療を行う病院・診療所)でこれらの医療を受けたときに、5万円を上限に助成が受けられますが、回数は1組の夫婦につき1回限りです(いずれも東京都の場合)。 最近よく耳にする体外受精という不妊治療法は、一般不妊治療には含まれません。

不妊治療のファーストステップはタイミング法

タイミング

妊娠するためには、およそ4週間に1個しか排卵されない卵子が卵管を通るあいだに精子と出会うことが必要です。このチャンスを待って、精子は射精のたびに1億個も射出されるのです。卵子と精子が出会い、一つになって子宮内に着床するのが妊娠です。
卵子が生きている時間と精子たちが生きている時間がうまく合えば妊娠できる可能性が高まります。待機療法がタイミング法とも呼ばれるのは、卵子が卵管を通る時期を把握して、それに合わせてセックスするためです。

排卵日の推測は、基礎体温や排卵検査薬でもある程度できますが、病院では“頸管粘液検査”“経膣超音波検査”“尿中LH検査”といった、より専門的な方法で排卵日を調べます。実際には排卵日の1~2日前のセックスが妊娠成功率が高いと言われています。
慎也さんによれば、これがなかなか大変だったそうです。
「たまたまその日に帰りが遅くなると、彼女は『待っていたのに!』と機嫌が悪くなることもあった。男としては(日を決めてするのは)盛り上がらないし、無理だよ……という気分にもなる」
“この日こそ”という使命感が過ぎて、口喧嘩になることもあったようです。
男性にできることは、排卵日になるであろうと予測される日の前後に、接待や外食の約束を入れないことぐらい。そうとわかっていても、お互いの気分が高まったときにセックスをするというのとちがい、プレッシャーを感じる男性は少なくないそうです。

人工授精は特定の目的をもった治療法

人工授精

一般的にタイミング療法を5~6回行って効果がないと、人工授精法に切り替えることを医師から勧められます。(表中にある薬物療法は排卵誘発剤を飲んで、排卵がなかったり少なかったりする人に対して排卵をうながす薬で、妊娠率を上げるものです。)
ことばも似ているので、“人工授精”と“体外受精”を混同する人も多いのですが、まったく別の施術で難易度も、かかる費用も大きく異なります。

人工授精(AIH)は精液から成熟精子を回収し、管で子宮の奥に注入する方法です。男性が3~4時間前までに自分の精液を採取しておくことが必要です。この方法はタイミング法よりも少し妊娠率が上がりますが、あくまで少しです。というのも、人工授精は特定の場合に効果を発揮する方法だからです。

・子宮頚管(子宮の入り口)の粘液が少ないなどの理由で、うまく精子が子宮内に上っていけない場合
・子宮内膜症による場合、排卵誘発剤と併用すると効果がある
・卵管に問題がある場合、排卵誘発剤と併用すると効果がある
・精子の濃度や動きの活発さに問題がある場合

なので、5~6回で妊娠できなければ、それ以上続けてもムダになってしまう可能性が高く、体外受精など別の方法に進むことになります。慎也さん夫妻の場合も、慎也さんの精子にも奥さんの卵子・卵管にも問題がなかったため、人工授精から体外受精を選択することになりました。

卵子にも精子にも問題がないということは、いつ子どもを授かってもおかしくない、妊娠の条件は整っている、というグッドコンディション。それなのに……と受胎を待つ人々がたくさんいるのは、これほど生殖医療が進歩した現代でも「子は授かりもの」であり、妊娠の成否は神秘の世界だということです。

その“授かり”の確率を少しでも上げたい―

楽しい未来を思い描いて始めたはずの妊活でしたが、次第に二人は厳しい現実に直面していきます。
「痛みを伴うのは女性なんだ、と思った。絶対フィフティフィフティになれないんだ、という後ろめたさがつのった」と、慎也さんはふり返ります。
しかし、この取り組みは10年の長きにわたったのです。……次回に続きます。

参考資料:厚生労働の現場から―不妊のこと、1 人で悩まないで 「不妊専門相談センター」の相談対応を中心とした取組に関する調査
(平成30年1月 厚生労働省 政策統括官付政策評価官室 アフターサービス推進室)