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LOVE & SEX

射精を科学する①
~男性のオナニーには重要な目的があった!~


思い込み

性をテーマにしたライターをしていると、自分がいかに思いこみをしていたか、に気づかされることがたくさんあります。性の体験も肉体の構造も、とても個人的で個性的なものなので、「自分はこうだから他人もこうだ」という推測があてはまらないんだなあ、といつも気づかされます。
特に女性の身体の感じ方は人それぞれで、性感を感じる部位もたくさんある上に、刺激を受ける順番によってまた感じ方がちがったりするので、「こうすれば女性は感じる」と決めつけないように気をつけて書いています。男の人にしてみたら、「前の彼女はこれが好きだったから」が必ずしも通用しないのが女性の身体だと思います。
そこで私は男性向けの相談室やスピーチでは、
「男性の皆さんは同じような経過をたどって射精に至ると思いますが、女性は人それぞれにちがうのです。『こうすれば感じるはず』『こうやればイクはず』と、よかれと思って押し付けをしないように気をつけてください」
というようなお話をしていました。
ところがこれまた、私の思いこみだったようなのです。

ほとんどの官能小説やAVは男性だけが見ることを前提にしているため、女性の反応についてはくわしく描写していますが、男性がどのように感じているかはあまり語りません。AVなら「ウッ、出る!」と腰を突きあげるだけ、官能小説でも「たちまち隆々と勃起して、背筋を快感が駆け上がり、やがて勢いよく大量に射精した」ぐらいの描写が多く、私はそれで「男性の射精はみんな同じようなもの」と思ってしまったのです。
―ほんとうのところはどうなんだろう?
精液を女性のなかに放つ瞬間、男性の身体にはどんな感覚が起こり、どんな感情に支配されているのかが知りたくなり、信頼できる男性の友人数名にメールインタビューしてみることにしました。
その結果、返ってきた回答は実に人それぞれで、ひとりひとり違う言葉で表現していて、男の人はこんなにさまざまな思いを心に秘めていたのかと驚き、感動させられました。

ふわーっとしたモヤモヤを一気に解き放ちたい気持ちがやがて……

オナニー

まず驚かされたのが、ある俳優さん(AVではなく一般映画の)からのメールでした。彼はバスルームで実際にオナニーしながら、「今何が起きて、どのように感じているか」を実況アナウンスしてくれたのです。下半身はいっさい映さず、服を着た胸から上だけを記録した動画が送られてきました。
「いやらしい動画が送られたきた」という感じはありませんでした。「女性の読者は、射精の瞬間、男性の心と身体に何が起きているかを知らないから」というインタビューの主旨をよく理解してくれて、ときに興奮を途中で止めて言葉を探すなどしながら、女性にとっての教材となるように努力してくれたのが伝わってきたからです。
以下、動画から彼の言葉を拾ってみます。

① ローションを手につけて、手は画面に映っていない下半身に伸ばし、性器を包むところからオナニーがはじまります。
「温かい……エロいというより、温かいの方がだいじです。ふわっとした、もわっとした感じが今起きています。……いやらしいことを思い浮かべます。声も出てきます。こういう感じはたぶん女性も一緒じゃないかな……?」
たしかに、女性もオナニーの最初は乳首とか、クリトリスのあたりとか、を手のひらでじんわり温めるようにしたりします。セックスの最初にしっかり抱き合う感覚を思い起こす人もいるでしょう。

② 「なんか浮いてくるような、足先から太もも、肩の先……が、ふわーっと無重力になるようなそんな感じ。でも、これからビンビンになるって予感があって、お尻のほうに力が入ってきます」
ここで彼は「うぁ!」と小さくうなりました。
「お尻から前立腺がキュッと熱くなる……全体の集中がちんちんに注がれています。だいぶ熱くなってきます……」
息遣いが荒くなり、だんだん実況がつらそうな感じになってきます。

③ 「お尻から太ももにかけてキューッと温かいものが押し寄せてきます。気を許せばふわーっとなる、そういう感じがします。……ここから、ふわっとしたモヤモヤを一気に放出したいなという気持ちが現れてきます」
ついに射精への秒読みがはじまったようです。
「しごく回数がグッと増えます、グッと増えます……う、ここで一回止めます」
この瞬間を解説するために、彼は手の動きをゆるめ、少し意識を冷ましてくれたようです。かなりつらそうな感じです。
「何だろ、ちんちんの凝っていたいという気持ちが、ふわーっとしたやつを思いっきり宇宙に投げ出されるような、そんな瞬間です」
再び、興奮を全開にしていきます。
「そっからさらに、うう、あっ、イクときはたぶん宇宙に自分の身体が解き放たれるときだと、押し殺す力と出そうという力のせめぎ合い……それがイク瞬間……イキました」
射精したことを告げながらも、
「ふわっと……宇宙に……無重力状態に身体が投げ出された、そんな感じがしました」
と、役者さんらしい言葉で最後まで描写してくれました。
女性である自分には体験できない、射精の瞬間までの身体全体と意識の変化を知り、「射精って、ただ排泄するだけではないんだ」と感動していました。

そのとき男性器の内部で起きていること

セックスとオナニー

バスルームで彼が行ったのはオナニーですが、オナニーをどのくらいの頻度で行うかは年齢と、オナニー以外で何回射精したかによって変わります。精子をたくさん作る人は当然射精の回数もふえますが、睾丸の大きさなどに左右されるので個人差があります。
英国の生物学者、ロビン・ベイカー博士によれば、精子の製造量は年齢によって大きく変化するそうです。

年齢 一日の精子製造量 射精の頻度
思春期~30歳位 300,000,000個 週に3~4回
~50歳位 175,000,000個 週に2回
~75歳 20,000,000個 月に1回以下
R・ベイカー著『精子戦争 性行動の謎を解く』(河出書房新社/2009年)より

この「射精の頻度」はセックスとオナニー、両方をふくめての回数です。セックスをする機会のある・なしがオナニーの回数を左右することは想像できますが、それではセックスとオナニーは相手がいるかいないかの違いだけかというと、それだけではないそうです。
ベイカー博士によると、セックスとオナニー、それぞれの射精する精液の中身は同じではありません。セックスしたときに女性の子宮内で確実に受胎まで勝ち抜くことができるよう、男性の身体は必要な精子の数などを予測して調節しているのです。
精巣内でつくられた精子は時間が経つにつれて役割が変化します。作りたての、エネルギーに満ちた活発な精子を博士はキラー精子(Seek and Destroy)と呼びます。彼らは油断なく動きまわって、他人の精子を見つけたら撃退しようと狙っています。
では時間が経って動きが遅くなった精子は出番がないかと言えば、彼らにも重要な役割があります。ブロッカー(Blocker)と呼ばれる彼らは、後から他人の精子が入ってきたときに備えて子宮頚管(しきゅうけいかん)のくぼみにひそんで守備に徹します。キラー精子にくらべると、形もゴツゴツしてスイスイ卵子まで泳ぎ着くには不向きな者たちです。
キラーはほかの精子に出会うと、相手精子の頭の化学物質をテストし、自分たちと同じ型だとわかると道をゆずり、ほかに敵がいないか探しに行きます。彼らの闘いは最長72時間も続きますが、優秀なキラー精子は子宮内にとどまらず、卵巣の近くにまで到達します。このとき、キラーと一緒に卵管を徘徊しているのが精子の中のエリートであるエッグ・ゲッター(Egg Getter)、まさしく卵子に到達する勝利候補者です。キラーと同じく、なめらかな姿で動きも速いですが、頭部が大きいのが特徴です。

ティッシュやコンドームにたまった精液は捨てるしかない排泄物のように見えるかも知れませんが、実はこんなにインテリジェントな戦闘能力を持っているのです。そして男性の身体はこの精子戦争に勝つ《他者の精子が入ってきてもこれを退け、卵子まで辿り着く》ことを目標に、精子の構成を調節します。
ブロッカーが多すぎて、エッグゲッターやキラーの動きを邪魔することがないように、古くなった精子をオナニーのときに外に出してしまいます。これがオナニーの重要な目的で、人間以外の動物もオナニーをします。人間の中には、オナニーは「セックスの相手がいない人がすること」「性欲が強すぎる人がすること」と笑う人がいますが、確実に遺伝子を残すための重要かつ高度な戦略なのです。

それでは、オナニーではなくセックスのときには、男性はどんなことを思って射精に至るのでしょうか。メールインタビューによれば、これは人によって大きな違いと個性がありました。このお話は次回に続きます。