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LIFE & BODY

40歳までに産まなければダメですか?①
~広がる選択肢、たとえば「卵子凍結」~


「いつ産めるか」なんてわからない!

このコラムはこれまで、「女性にとって心地よい“性”とは」ということを楽しく追求して書いてきました。
“性”にはもう一つ、大きな意義があります。誰もが知っているように、子供を持つという目的です。

社会とテクノロジーはたゆまず変化しているのに、「子供は女性が産む」という事実だけは変わっていません。しかも、子供が授かるかどうかは、私たちがいくら望んでも祈ってもそれとは関わりなく、まるで神が決定するかのように偶然的に決まります。
母になる心の準備すらない人が出産することもあれば、いつでも子供を迎えられる環境の人がどうしても妊娠できないこともあります。神様はとても過酷だと嘆きたくなることも少なくありません。

そんなある意味厳しい現実のなかで、どのように妊娠・出産とかかわっていけば女性は幸せになれるのでしょうか。産む・産まないにかかわらず、「これは私が選択した最良の結果だ」と感じられるのでしょうか。
今回から2回連続で、30代から40代の女性に貴重な体験とご意見をお聞きし、読者の皆さんといっしょにこの問題について考えていきたいと思います。

現代の女性にとって、いつ子供を産むかという問題はとても重要で、とても複雑です。
何歳で就職して、何歳で資格を取って……という職業的なキャリアはある程度計画ができますが、妊娠・出産・育児には不確定要素が大きく、またそれによって職業キャリアを変更せざるを得ない場面もでてきます。(そのたびに人手が必要になったり、予想外にお金が必要だったり、行政との交渉があったり、転職を余儀なくされたりします。)

○妊娠したとして、いつまで仕事を続けるのか……
○いつから仕事に復帰するのか……
○そもそも生まれた子供をすぐに預けるところが見つかるのか……
 それだけでも頭がいっぱいになりそうなのに、
○出産直後に夫の転勤があったらどうしよう……
○子供が虚弱ですぐにあずけられなかったらどうしよう……
○双子だったら……
○帝王切開などで退院が遅れたら……
○二人目以降はいつ産めるだろうか、それとも一人でいいだろうか……

というような、実際にその時が来てみないとわからないことまで考慮に入れて将来の計画を立てる難しさ。年齢を重ねるごとに「早く決めなきゃ」「でも今は相手がいないし」と葛藤がはじまります。そして「こうしているうちに産めない年齢になってしまうのでは!?」と焦る、そのストレスはとてもつらいものです。

そもそも“産めない年齢”とは何歳なのか?
先日、ピルコン主宰(注1)の『think of hinin』というイベントで、産婦人科医の早乙女智子先生(注2)の講演に、出産年齢の話が出てきました。
「よく“40代で奇跡の出産”なんて言いますが、全然ふつうのことなんですよ。昔の女性、40代で産んでいますから」
そうだったのか!……と驚き、講演で引用されていたグラフに似たものを用意しました。(注3) 
昭和までは出生数そのものが多いので単純比較はできませんが、たしかに高齢出産は戦前からあったことがわかります。

グラフ

高度経済成長期に入って激減したものの、医療の進歩とともに少しずつ増えてきたというのが現代の状況で、奇跡と呼ぶよりは当然の結果だとも言えるのではないでしょうか。

40代の初産は奇跡? それともレッドゾーン?

漫画家でアーテイストのろくでなし子さん(注4)は2016年にザ・ウォーターボーイズのマイク・スコット氏と結婚し、翌年アイルランドで男の子を出産しました。44歳での初産、しかもご実家と遠く離れた海外でのお産ですが、不安はなかったのでしょうか?
許可をいただいて、なし子さんの漫画『妊娠した時思ったこと』から抜粋してお伝えします。日本で40代の出産というと、たしかにこんなイメージがありますね……。

日本

なし子さんも最初に妊娠がわかった日本の病院では「受け入れられない」と言われていました。
「高齢出産でも受け入れてくれる評判のよい病院は都心にあり、お値段もとても高いので、もしもわたしがシングルマザーだったら諦めて、最初の病院が紹介する区の病院で産んでいたと思います」
ところがスコットさんの住むアイルランドでは、40代の妊婦を特別視していないのです。むしろ「あと1人くらい産めるよ」と担当のドクターに勧められたそう。

アイルランド

帝王切開したなし子さんも5日で退院(日本では10日間から2週間入院する)できました。「奇跡、奇跡」ともてはやすのでもなく、「危険だ、危険だ」と妊婦さんを不安に陥れるのでもなく、
「アイルランドのドクターやスタッフは、日本の産婦人科医のような謎の厳しさがまったくなく、おおらかで、リラックスしてその日を迎える事ができました」
という点、とてもうらやましいです。
日本人も、40代以上の出産をもっとナチュラルに受け止めてもいいのでは。「やりたい勉強や仕事をしたのちに、30代後半~40代で出産する」という計画は決して非常識でも危険でもないのでは、と思いました。

(注1)NPO法人ピルコンは医療従事者などの専門家の協力を得ながら、中高生向け、保護者向けの性教育講演や、性の健康に関する啓発活動を行う非営利団体。代表・染矢明日香。http://pilcon.org/
(注2)早乙女智子は産婦人科医師、公益財団法人ルイ・パストゥール医学研究センター研究員。
(注3)厚生労働省が2018年9月7日に同省公式サイトで公開した、人口動態調査における人口動態統計(確定数)の2017年版の概況などを基に、「ガベージニュース」が『日本の高齢出産状況をグラフ化してみる』として編集・公開しているもの。http://www.garbagenews.net/archives/2013446.html
(注4)ろくでなし子は日本の漫画家、美術家、フェミニスト。日本性器のアート協会会員。自らの女性器を型どりデコレーションしたアート作品「デコまん」を作り、注目を集めた。(Wikipediaより抜粋)
アイルランドでの出産のようすを描いた漫画をnoteに掲載中。
「妊娠した時思ったこと」 https://note.mu/69d745/n/ned081fa4c485
「あのガマンは1体…」 https://note.mu/69d745/n/n273ca0e2aa86

40代でも生理さえあれば妊娠・出産できるはず!

妊娠

生理があるということは排卵があるということで、妊娠能力がある証拠です。この卵子のもとになる卵胞細胞は、私たち女性がまだお母さんの胎内にいたときにすでに持っていたものです。生まれてもいないうちから、女性は一生分の卵胞細胞を抱え、それを毎月大切に排卵しながら生きていくなんて、すごいですよね!
このことを知ったとき、女性は出産をしてもしなくても、子供が好きであってもそうでなくても、一生を通じて母の役割をになっているんだなあ、と驚きました。

女性が誕生前に持っている原始卵胞の数は約200万個。それが月経のはじまる思春期ごろには20~30万個にまで減少しているそうです。
その後、月経周期が一回来るごとに約1000個減っていきます。私たちは日々、30~40個の原始卵胞を失い続け、その数ふえることはありません。男性は、精子のもとになる細胞を増やすことができ、何歳になっても精子をつくることができるのと対照的です。

しかし、それならばこの卵胞細胞が残っているあいだは妊娠できるはずですよね。そこで問題になるのが卵子は老化するという事実です。(注5) 排卵はしていても、

卵子としての機能を失っている卵子だったり…
染色体異常を持っていて受精しても育たなかったり、着床できなかったり…

という異常の起こる率が高くなるのです。
やっと生涯のパートナーに出会えた、赤ちゃんの誕生を迎えるだけの貯えもできた、と思ったときには大切な自分の卵子たちが弱ってきている……ということは、誰にでも起こり得る大問題なのです。

どうにかして、卵子を若いときの状態のまま保存することはできないだろうか―
この思いというか、女性たちの悲願が医療技術として確立されたのが「卵子凍結保存」という手段です。
まだ流産しにくい年齢のうちに卵巣を刺激して卵子を採り出し、卵子バンクに凍結保管しておき、妊娠を希望するときが来たら解凍して、顕微授精を行うのです。

生殖工学博士の香川則子先生(注6)が「卵子がこれだけあれば1回は妊娠できるだろうという個数」を著書『私、いつまで産めますか? 卵子のプロと考えるウミドキと凍結保存』(WAVE出版)の中で年齢別に示しています。1回の妊娠を成功させるために、どれだけの卵子が必要かというデータです。

35歳の卵子 …… 5個
40歳の卵子 …… 10個
45歳の卵子 …… 20個

私たちが5歳の年齢を重ねるごとに、1回の妊娠ができる卵子の数は倍必要になっていくということです。これは40代でも妊娠・出産できる、している人が少なからずいる、という事実とはまた別に、知っておいたほうがよいことだと思います。

もちろん成功率100%の技術というものは存在しません。でも、妊娠・出産を望む人にとっては、少しでもその確率を高める方法があれば前向きに採り入れたい。あきらめるのは、やれることを全部やってからにしたい……そう願うのは自然なことです。
次回は卵子凍結を検討したことのある人たちからいただいた、貴重なご意見を紹介していきたいと思います。

(注5)「卵子の老化」という言葉はNHK放送・クローズアップ現代『産みたいのに産めない ~卵子老化の衝撃~』(2012年2月14日)で使われてから、広く知られるようになった。http://www.nhk.or.jp/gendai/articles/3158/1.html
(注6)香川則子は卵子工学博士。卵子凍結保存のプリンセスバンク株式会社代表。